「先生、このカルテは転院先に送ってもいいのですか?」
「個人情報的にまずくないですか?」
新型コロナウイルスに感染し、
入院していた患者さんの病状が落ち着いてきたので
自宅近くの病院に転院させることなりました。
そのとき、病状などの情報を転院先に提供するにあたり
患者さんの同意が必要でしょうか?
この問題について個人情報保護委員会と厚生労働省が
連名で書面通知しています。
https://www.ppc.go.jp/files/pdf/iryoukikan.pdf
この通知は「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス」のなかからコロナに関わりそうなものをまとめてみました!的なものになっています。
ところが、この書面がかなり難しい。
そこで、少し解読してみました。
なお、注意事項はあるものの
基本的に患者さんから拒否の申し出がない限り不要
このあたりをざっくりまとめると、
このような感じになります。
患者側が知っておきたいこと
但し、拒否してもダメなケースもある
もっとも、拒否して良いことはあまりなさそうですが。
病院側が知っておきたいこと
院内に利用目的が掲示したものがあれば、ほぼ提供可能。
でも、拒否られても提供できるケースもある。
ここまでは、ほぼ従来どおりの回答。
関連記事:病状はどう?病院に個人情報を問合せ!どこまで電話対応してもらえる?
一応従来どおりなのですが、
コロナ対応でちょっと踏み込んだのがこちら。
コロナ対応として患者も病院も知っておきたいこと
本人の同意を得る作業が著しく不合理である場合は、
同意を得ずとも提供できる。
以上の事柄について、
もう少し詳しく解読してみたのが今回の記事です。
「新型コロナウイルス感染症に係る医療機関間での個人情報の共有の際の個人情報保護法の取扱いについて」を解読してみた
「新型コロナウイルス感染症に係る医療機関間での個人情報の共有の際の個人情報保護法の取扱いについて」という、A4で1枚ものの通知文が個人情報保護委員会のサイトに公表されていました(令和2年4月 28 日)。
通知文ではありますが、Q&A方式で書かれています。
・・・1問しかありませんが。
最も気になるコロナ対応としての個人情報の取り扱い
コロナ対応は下記の3つが非常に重要であり、
本人の同意を得ることが困難かつ
同意を得る作業を行うことが
著しく不合理である場合は、
同意を得ずとも提供できるとしています。
家族等からの転院元への問合せに対する迅速な対応
他の医療機関等との迅速な個人情報の共有
キーワードが「迅速な」となっているので
著しく不合理で時間がかかるようなら
同意を得ずとも提供してまえ!ということでしょう。
ちなみに「不合理」は道理に合わず、
また論理的にも筋が通らない矛盾のことを意味します。
明確な基準や具体例がないのが痛いですが
そういう指針があることは覚えておきたいところです。
ちなみに、ガイダンスではこのようになっています。
大規模災害等で医療機関に非常に多数の傷病者が一時に搬送され、家族等からの問合せに迅速に対応するためには、本人の同意を得るための作業を行うことが著しく不合理である場合
その他の内容は、ガイダンスどおりなので
ゆっくり解説していきます。
転院した場合、個人情報は転院先に提供できるのか?という問い
通知文での問いは、下記のとおり。
なお、枠内の文章は長いので、無理に読まなくても構いません。
新型コロナウイルスに感染した患者の個人情報について、当該患者への医療の提供のために、当該患者の転院に当たって、転院元の医療機関から転院先の医療機関へ必要な個人情報を提供する場合に、当該患者の同意を得る必要があるか。
・・・うーん、長い。漢字ばっかり。
簡単にいえば、こんな感じ。
コロナ患者とありますが、
基本的な考えは他の病気や怪我の場合でも同じです。
原則は、同意なしに個人情報を第三者に提供はできない
個人情報保護法 第二十三条において
あらかじめ本人の同意なしに個人情報を提供してはならない
と定められています(例外規定あり)。
なお、同意を得る方法は、個人情報保護法に
文書でなければならないとはしていないので
口頭でも構わないとされています。
通知文でも ”診療録等に同意を得た旨を記録しておく”
というやり方を認めています。
「提供してはならない」という条文といい、
口頭でも構わないから同意を!というルールから察するに
他の病院への提供できそうにないのですが、果たして?
”黙示の同意” が個人情報の提供を可能にする
ポイントは、「黙示の同意」
「黙示の同意」とは、
同意しないという申し出がなければ、
同意したとみなすこと。
ガイドラインでも認めている結構強気な仕組み。
個人情報保護委員会と厚生労働省の通知文では、
同意なしに個人情報を転院先に提供できるのか?
という問いに、下記のように回答しています。
なお、この枠内も無理に読まなくても構いません。
◯ 御指摘のケースについては、(略) 転院元の医療機関において、院内掲示等により、個人情報の利用目的を明らかにし、患者から留保の意思表示がない場合には、「黙示の同意」が得られていると考えられ、必要な個人情報の提供が可能です。
少しわかりにくいのですが、
どうやら転院への個人情報の提供を可能にするには、
下記条件を満たさないといけないようです。
② その掲示に個人情報の利用目的を書いている
③ 患者から「個人情報を提供しないで」という申し出がない
単に個人情報についての掲示だけでなく、
利用目的まで書かれていないとダメ。
これは、大きな病院はともかく
小さな病院だと微妙なものも多い(ギリギリアウトのほうが多い印象)。
なお、③のように「提供しないで」って言わなかったから
同意したものとみなすこと「黙示の同意」といいます。
少し寄り道になりますが、黙示の同意について少し詳しく。
病院での黙示の同意とは?
病院に行くと下記のようなフレーズのポスターを
見かけたことはないですか?
これらの紙面の下の方に
小さな文字でこんな感じのことが書かれていると思います。
「他の医療機関への情報提供について
同意しがたい事項がある場合には、その旨をお申し出ください」
見たことはあるけど、読んだことはない
という方が、ほとんどではないでしょうか。
でも、利用目的が書かれた貼り紙がありさえすれば
読まれようと読まれまいと知ったこっちゃありません。
貼ってあるだけで、①と②を満たすことになるのです。
つまり「転院先の病院に個人情報を出さないで!」
とでも言わないかぎり、同意したものとみなされ
黙示の同意が成立するのです。
個人情報の提供を拒否してもダメなときがある(例外規定)
本人の同意なしに第三者提供はできない
という個人情報保護法ですが、例外が2つあります。
① 人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合
② 公衆衛生の向上に特に必要がある場合
人の生命、身体又は財産の保護ってどんなとき?
人の生命、身体又は財産の保護と言われても
ピンとこないかもしれません。
通知文から察するに、
今回の事例ではこういうパターンのようです。
なお、個人情報保護法では「本人の同意を得る事が困難」
という前提条件になっています。
公衆衛生の向上に特に必要がある場合とは?
今回のケースで、公衆衛生の向上に必要がある場合とは
このあたりが該当しそうです。
公衆衛生の向上というと、
上下水道の整備、公害対策とかのイメージが強いですが
伝染病の予防,予防的治療のための医療も含まれます。
なお、厚労省の具体例によると、
”がんの疫学的研究など、疾病の予防、治療のための疫学調査
その他の追跡調査等がこれに該当するものと考えられる”
とされています。
ですから、これに類似するようなものであれば
例外規定として同意なしに転院先へ提供できそうです。
まとめ
個人情報を転院先に提供するにあたり、
患者さんの同意が必要か?という問いに対して
抑えておきたいポイントは3つ。
詳しくは、個人情報保護委員会と厚生労働省が
連名で書面通知していますので、そちらを参照ください。
https://www.ppc.go.jp/files/pdf/iryoukikan.pdf
以上です。
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