例えば、下図のように農地の状態を測定し、スマホなどで確認するシステムを提供する事業を始めたとします。導入してくださった農家の方々にも評判で、出来た農作物をいただく事もあるうえに売上は順調。とても幸せな日々を送ってました。
そんなある日、新聞でこんな記事をみかけて驚きます。
海外から日本のインターネットに接続できる「中継サーバー」を無届けで設置したとして、電気通信事業法違反容疑で◯◯を逮捕した。
「サーバって届出が必要なのか?うちにも関係あるのだろうか」
などと考えていたら、ピンポーンとインターホンが鳴って出てみると警察が・・・
まさか届出がいるなんて・・・
逮捕されるとこのご時世です、積み上げたものを全て失うことになるかもしれません。
上記のような無届による逮捕は作り話ではなく、新聞に取り上げられるものですら年2,3回あります。では、どういうときに届出が必要になるのでしょうか?答えは、電気通信事業法の第十六条に書かれています。
(電気通信事業の届出)
第十六条 電気通信事業を営もうとする者は、総務省令で定めるところにより、次の事項を記載した書類を添えて、その旨を総務大臣に届け出なければならない。
電気通信事業って何?といったあたりは、第二条で用語の説明されています。
第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
(一、二は省略)
三 電気通信役務 電気通信設備を用いて他人の通信を媒介し、その他電気通信設備を他人の通信の用に供することをいう。
四 電気通信事業 電気通信役務を他人の需要に応ずるために提供する事業(放送法(昭和二十五年法律第百三十二号)第百十八条第一項に規定する放送局設備供給役務に係る事業を除く。)をいう。
ざっくりいえば、他人の通信をとりもつ事業をすると届出が必要なります。そう言われてもよくわからないので、総務省が出している電気通信事業参入マニュアル[追補版] を見ると「事業の内容によっては異なる判断となる場合があるので、留意願いたい」という注意書き付きで下記のような具体例が挙げられています。
『転送電話、出会い系サイト、MVNO、チャンネル貸し、関連企業ネットワークの運営、クローズドチャット、決済代行、フリーメールなど』
よく逮捕され新聞沙汰になるのは「中継サーバーの設置・運用」なのですが、参入マニュアルにはそのような項目の記載はありません。IoTについても記載はありません。なお「他人の通信の媒介に該当するか否かは、電気通信システム全体をみて、情報の流れに即し、個別具体的に判断することが必要である」とも書かれています。
今回の農地の状態をスマホで見る事例ですが、具体例としては挙がっていないものの電気通信システム全体をみると届出が必要であったと考えられます。少なくも、総務省の地方支分部局である総合通信局(北海道、東北、信越、北陸、関東、東海、近畿、中国、四国、九州、沖縄にそれぞれあります)に確認は必要だったのではないでしょうか。
乗り越えなければならない法律の壁
電気通信事業法はあくまで一例であり、IoTを使ったビジネスを展開しようとするといくつかの法律の壁を乗り越えなくてはなりません。特にIoTの場合は、IoTセンサーなどのデバイス部、ゲートウェイ周辺の通信部、サーバのデータ部、スマホのアプリ部など部門ごとに必要な法律が異なるため、システム全体だけでなく個別にも法律を見ていくことになります。
では、どういう法律が壁になってくるのでしょうか?大きく3つに分けてみました。
① その業界特有の法律
例えば、害虫のみをピックアップして撃退するIoTの電撃殺虫器を開発しても電気用品安全法が立ちはだかります。また、IoTセンサーを使ってよい肥料ができたので売ろうとします。ところが、その行く手を肥料取締法が阻みます。この法律によると登録又は届出をしないと、肥料の生産、輸入、販売ができません。このように、業界特有の法律があればそれを乗り越えなければなりません。
② 通信関連の法律
通信に絡む法律として、電気通信事業法、電波法、有線電気通信法などがあり、免許や登録、届出が必要な場合や、通信設備が一定の技術的水準に適合していることを求められたりしますので、該当する場合には指示に従うしかありません。
③ ネットビジネスの法律
データの取扱いをめぐり個人情報保護法、知的財産権法、不正競争防止法などが絡んできます。また、AIなどを取り入れるとAIが起因となる事故が発生した場合には誰が責任を負うの製造物責任法なども意識しなくてはなりません。
どう乗り越える、法律の壁
法律の壁は自分達で勉強して乗り越えてしまうのがベストだと考えます。実際、自分達で何とかしようとする会社は多いと思います。しかしながら、元通信会社の技術部勤務だった私の経験上、法務部がなければこの手の会社で法律に詳しいという人はごく稀にしかいません。
そして、ほとんどの人が法律が絡むような仕事は嫌がります。それもそのはず、営業職は営業、技術職は技術にまつわる仕事がしたいのです。そのため、専門職以外のことを頼むとモチベーションが下がります(私もそうでした)。とはいえ、法務部を立ち上げるほどの余裕はなかなかないもの。それならば、法律に詳しい方、やってみたいという方がいなければ、外注したほうがよいのではないでしょうか。
新しい事を始めるのは楽しいですし、それに集中したいもの。ただ、みんながみんな同じ方向を見すぎて大事なことを見落とすという話もよくある話です。特に法律問題は命取りになりかねません。そうならないように、しっかり対策をたてておきましょう!
コメント