『マンガがあるじゃないか』とはいえ、人にマンガを勧めるのは危険【書評エッセイ】

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マンガがあるじゃないか

 

 

やはり『宇宙兄弟』を挙げるのは、ややあざとい感じがするな。

 

『宇宙兄弟』は、宇宙飛行士を目指す兄弟の物語。この作品、エロ・グロ描写がある、ギャグに品がなさすぎる、暴力がひどいなど、近年ヒットするマンガにありがちな不快に感じる要素や子供の害になりそうな要素がない。それでいて、子供にもわかりやすく、大人も退屈しない万人受けするマンガだ。

 

ところで、自分が好きなマンガを他人に勧めるとき、どのマンガを選択するのかによってその後の人生が大きく左右されると言っても過言ではないと思うが、どうだろう。

 

勧められたマンガを読んで面白なと感じると、勧めた相手との距離が近くなる感じがするが、グロい表現が多いものだと「んっ?」と思い、ちょっと距離を置き気味になったりする。

 

だから、相手にドン引きされないようなもの、何だったらちょっとセンスのいい人と思われるようなものを選びたい。そう考えると、万人受けする作品は、無難であり、無敵でもあるのだ。

 

それゆえ、『宇宙兄弟』を挙げるのは少しあざとい感じもする。

 

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そう考えていくと、人にマンガを勧める、特に老若男女問わず付き合いの浅い段階で勧める場合は、なかなか難しいことではなかろうか。もっとも、その本来は難しいであろうことを集めたエッセイがある『マンガがあるじゃないか』だ。

 

この作品、”まえがき” も ”あとがき” もないので、どういう意図で作られたのかはわからない。表紙に「わたしをつくったこの一冊」と書かれているけど、エピソードめいたことを書いている人はあまりおらず、単に好きな作品を力説されているエッセイが大半を占める。自己啓発につながることはあまりなく、好きな漫画のプレゼン的な作品だ。

 

さすがに自分の好きなもの語るだけあって、どの方も熱量が高い。そのうえ、ちょいちょいプライベート的なことも挟んでくるため、その人の”人となり”を垣間見るようで、これはこれで楽しい。

 

もっとも、佐渡島庸平さんのエッセイは、他の人とは異なり表向き少し冷めた熱量に見える独特の表現になっていて、そのクールさに惹かれて前のめりで読んでしまった。佐渡島庸平さんといえば、現在、株式会社コルクの代表取締役社長であるが、講談社勤務時代に『宇宙兄弟』を世に送り出したスーパー編集長だ。

 

そんな佐渡島さんが挙げられている作品は、みなもと太郎 作『風雲児たち』

 

これを佐渡島さんは歴史書だといってはばからない。しかも、歴史書として扱ったせいか、あらすじっぽいものにはほぼ触れておらず、最初のワンフレーズに全てを託している。

 

そのワンフレーズが秀逸で、最初に印籠やかめはめ波、デンプシーロールがでてきた感じ。読み手は、繰り出されたフレーズに敗れ、その後の文章を黙々と読むことになる。そして、読み終わると「参りました」という感じになるのだ。

 

佐渡島さんと対極になるが、もうひとつ気になるエッセイがあった。フランス文学者の中条省平さんが書かれたものだ。こちらは、業田良家 作『自虐の詩』を熱量特盛、見どころも特盛で語られていた。ちなみに『風雲児たち』は30巻ちかくあるのに対して、『自虐の詩』は上下巻の2巻しかない。

 

ということで、まずはこちらを読んでみた。

 

・・・が、全くハマらなかった(泣

 

これほどハマらないマンガも珍しいというくらい全くハマらなかった。全米が泣いた!という映画で全く泣けなかったのと同じ感じ。

 

身構えてしまったせいもあるのだろうか。4コマ漫画に馴染めなかったのだろうか。または、中条さんのレベルに達していないのか、感性が全く違うのか、何にしてもこの作品で号泣する中条さんと私との間にはかなりの距離を感じることとなった。

 

やはり人にマンガを勧めるのは、リスクを伴うものだ。

 

以上です(`・ω・´)ゞ

 

なお『マンガがあるじゃないか』は、29人のさまざまなジャンルの人が書かれたエッセイ集なので、誰か1人くらいは仲良くなれそうな人が見つかるはず。

 

・・・多分。

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