うん、よーわからんな。
白い額縁に飾られ、やたらライトが当てられている目の前の作品は、どう見てもいろんな色や太さの糸がくちゃくちゃに絡まった様子を描いただけのよう。いや、彼女にフラレてヤケになった画家が、うわーって奇声を発しながらキャンパスに八つ当たりしてできたようにも見える。
若い頃、家から歩いて5分くらいの所に美術館があったので、ちょくちょく通っていた。ただ、美術の知識といえば、漫画『ギャラリーフェイク』で培ったものしかないので、観ていてもよくわからなかった。
それでも、美術館は居心地がいいうえに、通っていれば「趣味は何ですか?」と聞かれたときに「美術館を巡るのが好きでね・・・」とオシャレな大人を演出できるのでは?という邪心と、あわよくば美術館デートに持ち込めるのでは?という淡い期待を抱きながら飽きもせず足を運んだもの。
ただ、通っているうちに気が付いた。
気が付かなかったほうが幸せだったかもしれないのに。
美術館は、ひとりのほうが楽しい。
気になる作品があれば、しばらくその世界観に惹きこまれていたいし、合わないと思ったらサラッと通り過ぎたい。とにかく、自分のペースで鑑賞を楽しみたいのだ。
そういう想いは私だけではないようで、京都の細見美術館がおこなった「鑑賞方法についてのアンケート」によると、美術館に”ひとりでくる”人の割合が圧倒的に多く、70%を超えていた。そして”恋人とくる”人の割合はまさかの0%
サンプル数が24人と少ないけれど、0%は衝撃的。
つまり、デートで美術館に行くことと、ガッキーこと新垣結衣さんが私に「つきあってください!」と告白することは、同じくらい確率ということらしい。
それはさておき、何度か足を運んでいると自分の好きな作品の傾向はわかってくるものらしい。当時の私は、有名どころで言えば、レンブラント、フェルメールなどがいた17世紀のバロック絵画に惹かれていた。
漫画『アルテ』のモデルともいわれるフィレンツェの美術アカデミーにおける初の女性会員 アルテミジア・ロミ・ジェンティレスキもこの時代だ。なお、彼女の代表作『ホロフェルネスの首を斬るユディト』は、不用意に観ようものなら「うっ!」となるので要注意かも。
もっとも『アルテ』は、その1世紀前の16世紀初頭、ルネサンス期のフィレンツェからスタートする。
絵を描くことが好きな貴族家生まれの主人公のアルテ。不自由なさそう彼女だったが、父の死がきっかけとなり家を飛び出し、画家工房に弟子入りする。そこから、さまざまな依頼に向き合っていくことになるのだけど・・・
この漫画、 ”中世のヨーロッパ+女性画家” というあまり前例のない組合せのため、次の展開が予想できない。けれども、降りかかる困難を持ち前の明るさと徐々に開花してく才能で乗り切るという朝ドラのような感じで話が進んでいき、ありがちな結果に落ち着いていく。この予想できないストーリー展開のワクワクとありきたりな結果の安心感が両立していて面白い。
もっとも、えっ?そっち向いて進むのではないの?という、いい裏切りがあるのも魅力。
しかも、美術系の漫画特有の美術のテクニックを紹介するシーンは最小限に抑えられており、むしろ、どういう手順でこの時代の仕事が進んでいくのか?というところに焦点を合わせている。それゆえ、参考になるセリフも多い。
絵画は有力者への贈り物にされたり、教会への喜捨としてゴマすりに使われたりもする。絵は絵を愛する者が注文するのではない。金のある者が自らの道具として注文するのだ。 「アルテ」第三巻 p.26より
絵画は画家が自分が描きたいものを描いてから売りに出される、というイメージだったのだけど、この漫画だと契約を交わしてから描くようになっている。その相手やそこで行われる交渉も結構生々しい。
ここで得た知識を美術館に持ち込んで、あんな感じで描かれた作品なのかなぁと想像するのもまた楽しそう。もっとも、この漫画自体として面白いので、娯楽として読むもよしだ。
でも、読むと美術館に行ってみたくなる、美術館に行くと読む返したくなる、そんな漫画。
なお、2013年に連載がスタートして、現在も月刊コミックゼノンで連載中。単行本は13巻まで発売中(2020年12月13日時点)。スマホのアプリでも読むことができます。
アニメも放送されていたので、本よりアニメ派の方はぜひ。
以上です(`・ω・´)ゞ
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